平将明です。
昨年11月から議論されている築地市場の豊洲移転問題は最終局面を迎えています。ここまで引き延ばしたこの問題を7月の都議選の争点にすることは好ましくなく、あとは小池都知事の決断を待つばかりです。私自身は大田青果市場の仲卸業者としての経験もあり、「すでに議論は決着がついている」と考えています。今回は、この問題のおさらいと着地点を述べます。
法律的に安全なのは確定済み
まず豊洲は安全です。移転しない理由がわからない。私は今、衆議院の環境委員会の委員長をしていまして、先日、土壌汚染対策法の改正案の審議をしたのでその話をしたいと思います。
問題になっている土壌汚染については、土壌汚染対策法という法律がありまして、「土壌汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護する」というのが目的になっています。
その中に、「自主調査において土壌汚染が判明した場合において土地所有者等が都道府県知事に区域の指定を申請(14条)」という内容があり、調査によって”土地の汚染状態が指定基準を超過した場合”については「区域の指定等」の項目でまた定められていることがあります。
それによると、豊洲の土地は「形質変更時要届出区域」、つまり「汚染の摂取経路がなく、健康被害を生ずるおそれがないため、汚染の除去等の措置が不要な区域」ということになります。
こうした法律上の立てつけがあった上で今回のケースをわかりやすく説明してみます。
まず、豊洲の土壌は汚染されていました。東京都は、最新のテクノロジーでかなり浄化しました。でもまだ、本当にキレイな土壌ではなく、そこに水が流れれば当然、水が汚染されます。
その土・水が、国民の健康に被害を及ぼすか及ぼさないかということが、議論のポイントです。重要なキーワードは、”摂取経路”です。摂取する経路があるかどうか。
汚染された土壌を通ってくる水は多少なりとも汚染されますから、その水を飲む人がいたり、市場でいえば氷にしてマグロを冷やしたり、その水で魚を洗ったりすると危ない。でも、その地下水をそういったことに利用することはありません。利用するのは水道水です。それに、そもそも床にはコンクリートが敷かれ、土壌との間は地下ピットと呼ばれる空間でも遮断されています。
環境省的には、法律についての手続きはすでに整えて必要な措置もしているので、土壌汚染対策法上は問題ありません。
豊洲の空気がダメなら道路だって歩けない
今の東京都の対応をどう認識するかといえば、国の基準では安全だけど、都が独自の判断で追加的な対応をしているという状況。
移転慎重派の人たちは、摂取経路が無いとはいうけど、土が汚れていて、水が流れている、だったらその液体がガス化するだろうと論理を展開します。ベンゼンとか危険じゃないかと。
施設の底に溜まった水が、基準値の何十倍と言いますが、そもそもの基準が、70年間その水を飲んでも健康を害さないというレベル。例えばその何十倍の数値が出たといっても、別に猛毒の水溶液があるわけではありません。
それが蒸発したら何千倍にも希釈されます。その空気中に溶け込んだ物質が例えばマグロの表面についている水滴に溶け込んだとしても、検出できるレベルではありません。ですので、そこまで考える科学的合理性はないし、土壌汚染対策法もそこまでは想定していないのだと思います。
一部の慎重派の方々はまるでゼロリスク論です。豊洲市場は密閉型で、トラックが建物の中に入って来ないようになっています。中で走るフォークリフトやモートラ、ターレなどはみんな電動です。それ対して既存の市場は売り場までトラックが入ってきますし、プロパンガスのフォークリフトも走り回っています。
それを、豊洲には飲み水としては基準値の何十倍を超えるベンゼンが地下にあって、それが揮発して密閉型の市場の中に入り込むリスクがゼロではない、さらにそれが原因で健康を害するリスクがゼロではないから市場としてダメと言ったら、日本中の既存の市場は全部アウトです。この理屈でいけば、車がビュンビュン走っている横の歩道もガスマスクなしでは歩けなくなるのではないでしょうか?
築地が再整備できたらとっくにやっている
さかのぼると、今から29年前の平成元年に、私たち八百屋は神田市場(秋葉原)にいまして、現在の大田市場に移ってくるときに、実は築地の魚屋さんも一緒に大田市場に来る予定でした。
八百屋は反対運動があったものの、結局移りました。しかし築地の魚屋さんたちは、反対運動がすごすぎて来られませんでした。それで、築地を再整備すると言って商売しながらいろいろチャレンジしましたが、やはり現実的ではなかった。
その時点で大田市場に移りたいと思ってももう手遅れ。大田市場用地の3分の1はすでに野鳥公園になっていましたから。だから他に近場で用地はないか、ということで豊洲市場移転計画が進んできました。今になって有識者が築地を再整備といっても、それができたらとっくにやっているわけです。
ネット上ではもう議論に決着がついている
東京都が独自の判断で追加的な措置を講じ、最終的に豊洲に移転するのをやめますと判断したとしても、それは東京都の勝手というのが国の立場になるでしょう。その代わり、ちゃんと手続きを踏んでもらう必要があります。
豊洲市場建設については農水省の補助金208億円が入っていますので、市場として使わないのであれば、そのお金は返してもらわなければなりません。それは国の税金なので。
小池百合子都知事は「安全だが安心ではない」と言いますが、「安全」は客観的・科学的な話です。一方、「安心」というのは主観的・情緒的な判断。われわれ政治家がやることは、安全だということが判明したら、都民や利用者に、「これは安心ですよ」と伝え、納得してもらう努力をすること。それがまさに政治家の仕事、東京都知事の仕事です。
そもそも、法律も行政手続きも、安全なのに不安を煽る行政トップっていうのを想定していないのだと思います。だから事がややこしくなってしまっているのです。
あとは、小池都知事がどういう判断をするか。都議選まで引っ張りたかったのかもしれませんが、安全性や耐震性などの議論は、ネット上ではもう完全に決着ついていますし、これ以上引っ張れないと思います。
豊洲移転を決めたって批判されるし、豊洲移転しませんって言ったって批判されます。ただ、豊洲移転しないことによって、毎日500万円の維持費がかかるとも言われています。昨年11月の延期から都民の税金はすでに100億円ほど余計な経費がかかっていることを忘れてはいけません。
※ 「政経電論」から転載 https://seikeidenron.jp/statesman/20170605_column_taira.html
生年月日:昭和42年2月21日
当選回数:4回
学歴:1989年3月 早稲田大学法学部卒業
得意な政策分野:成長戦略、中小企業政策、行政改革、クールジャパン政策、規制改革
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