平将明です。
大田青果市場の元仲卸業者として、豊洲市場移転問題の行方を懸念していました。結論を先延ばしにしていた小池百合子都知事は都議選の前に決断、「豊洲移転&築地再開発」案をぶち上げ、7月2日の都議選に大勝しました。しかし、これは小池都知事が繰り出した”まやかし”で、このまま進めることには警鐘を鳴らす必要があります。私はその正体を暴き、合理的解決策を導きたいと思います。
「豊洲移転&築地再開発」案はまやかし
豊洲市場移転問題については、私が前回のコラムで「決めないわけにはいかない」と指摘した通り 、小池都知事は都議選前に決断を下しましたね。豊洲への移転は歓迎したいと思いますが、まったく余分なのは築地の再開発。豊洲に移転した後、築地に戻ってくるのは絶対にありえない。税金のムダ遣いになるので止めなければいけません。
小池都知事の何が一番の罪かというと、築地の人たちを分断したことです。30年近く時間をかけてようやく豊洲に行くと心を一つにしたのに、それを昨年11月に止め、分断してしまいました。
また、築地の再整備ができるというようなことを打ち出し、さらに分裂を深めました。
小池都知事は「決断できない」という批判もあり、それが都議選に不利だという考えから決断を演出したわけです。でもそうなると、なぜ今まで決めなかったのかという批判が生まれるため、築地の再開発ということも一緒に打ち出したのではないでしょうか。
それによって、豊洲移転派にも築地再整備派にもいい顔をしたように見える。有権者にとっても良い感じにとらえられているかもしれませんが、これはまやかしの案です。
「市場(いちば)」は生態系
市場を知っている人はみんな反対しています。なぜなら市場というのは生態系だからです。「荷受会社」(卸売会社)があって「仲卸」がいて「買参人」(小売)がいて、その先には量販店や加工会社、外食産業などいろいろな人たちがいます。
荷受会社は全国から荷物を持ってきてセリを主催し、仲卸や買参人はセリに参加して、瞬時に値段をつけていきます。この生態系の何が良いかというと、さまざまな産地のいろいろな品種が入ってくる、多種多様な買い手が参加するなかで調整ができること。
例えば荷受にしてみれば、いつもよりたくさん入荷した場合、市場にはいろいろな買い手がいるので、日頃は声をかけていない人にも声をかけて買ってもらうことができる。また、買い手の立場からみると、例えば入荷が少なければ値段が高くなるので、ほかの魚や品種で対応しようとかいう調整もできる。
多種多様な参加者がいて初めて市場は生態系として成り立ちます。一番すごいのは調整能力が優れていること、また、鮮度がもたないものを瞬時に、残らずお金に換えてくれること。
小池都知事の周りのブレーンの話を聞くと、比較的規模が大きな会社は豊洲に行きたいと言っていて、比較的規模の小さな会社や小売は築地に残りたいと言っているので、二手に分かれればいいのではないかと言う人もいます。
しかし、市場は多様性でエコシステムを作っているので、それを分けるというのはありえません。分けたら両方の機能が極端に落ちますし、サスティナブルではないのでいずれ時間の問題でどちらかが続かなくなります。
小池都知事のブレーンたちの勘違い
では市場としての豊洲を破棄して築地に戻って来るかというと、そんなことは起きない。法律上も科学的にも安全な豊洲市場で5年間ビジネスやって回り始めている状況で、それを捨てて築地に戻るのかといったら絶対に戻りません。
さらに小池都知事は、仲卸の目利きを使って「食のテーマパーク」をつくりたいと言っていますが、それにも問題があります。仲卸が目利きできるのはセリがあるからで、いろいろな産地や等階級があるなかで目利きをして値段をつけているからこそ。
今度、築地の再開発でつくろうとしているところに市場機能を持たせたいと言ったところで、そこに荷受会社が来なければセリも行われませんし、そうなると当然、仲卸も目利きはできません。
彼女のブレーンの話を聞く限り、どうやらアメ横や場外市場のようなものをイメージしているようですが、それらはBtoC(Business to Customer)であって、それに対して本来の市場はBtoB(Business to Business)。もしかしたらマルシェのようなものを市場だと思っている有識者がいるのかもしれません。
例え築地を再開発しても、本来のBtoBの市場機能はありませんし、無理につくっても「市場」としては持続不能です。だから市場の流通をわかっている人たちは、今回の案を「何それ?」と言っているのです。
もし本当に「食のテーマパーク」をつくるのであれば、まったく市場とは別のものをつくるという公共事業を東京都が主導して、やるのかやらないのか、是か非かを決めればいいと思います。
フローかストックかはどちらでもいい
小池都知事は、豊洲はフローで運営が赤字だから、どこかでキャッシュを生まなければならないということで築地の再開発を言い出しました。
これは経営をやっている人ならわかりますが、一発で売って回収するか、再開発して家賃収入や手数料などで稼ぐかという、ストックかフローかの違いだけ。極端なことを言えば、どっちだっていい話です。
フローでやるにしても、PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)で民間が自由度を高めて実施をするだろうし、むしろ東京都が主導でやるよりも民間がやったほうがうまくいくのですから、売ってしまった方がいい。
それに、そもそも行政である東京都が「食のテーマパーク」をやる大義もありません。選挙に勝ったといって、これをそのまま進めることはさすがに賛成できません。
では、豊洲の収支をどうするかですが、市場会計は独立会計です。1989年に神田市場から大田市場に移ったときも、神田市場は売却しています。都心の神田市場の方が土地としてはバリューがありますし、今では都市開発で整備されてロータリーができ、高層ビルが並んでいます。安倍総理の最終演説で話題となったあのロータリーがまさに神田市場だったところです。
今回の件も、豊洲を整備して築地を売るのがベスト。また、豊洲市場では科学的に必要のない追加的な安全対策にさらに金をかけようとしています。それらはすべて収支に跳ね返ってくるのですから、必要以上のことはするべきではありません。
豊洲市場問題を解決する5つの合理的な策
合理的な解決策は5つ。まず、[1]早急に豊洲市場に移転する時期を早期に確定させること。[2]築地を売却してバランスシートを改善。また、[3]これ以上必要のない安全対策は行わない。そして、[4]赤字とされる豊洲のキャッシュフロー対策として、公設民営化や空港などでやっているようなコンセッション方式導入を検討するなど、収支改善を図る。豊洲市場の緑地化した屋上を利用してシェアリングエコノミーで活用することも検討するのもいいでしょう。
さらに、[5]外需を呼び込む機能を市場にビルドインすること。大田市場でいえば、羽田空港と連結して輸出の拠点にし、外国人バイヤーに買参権を解放することなどが考えられます。そうすることにより取扱量が増えるし、単価も上がる。豊洲市場も海外の需要に対応する機能を組み込むことが大切です。
市場は国内だけを見てきたために、取扱量が減ったり、単価が下落したりしてきました。外需をビルドインしてしまえば、施設の限界まで量も増やせるため、荷受も仲卸も今まで以上に稼ぐことができます。市場の参加者の利益が増えれば、市場会計の収支改善の方策も見えてきます。
そういったことをやれば、何も築地を再開発して5年後に戻るというようなできもしないことを言うより、豊洲市場を機能強化して、豊洲市場の収支を改善し、取扱量を増やし、単価を上げるという”王道”で十分収支は黒字化できると考えます。
「豊洲移転&築地再開発」はまさに選挙用の計画
最初は「土壌が汚染されている」、次は「地下水が汚染されている」とうことで豊洲市場は危険だと言い、その後は「市場の使い勝手が悪い」「床が抜ける」「柱が曲がっている」などいろいろ報道されてきましたが、どれも市場の安全性に関しては本質的な問題ではなく、また、一部は”フェイク・ニュース”だったわけです。
これまでのフェイク・ニュースは、一部政治勢力のプロパガンダそのもの。周りがそれに乗ってしまったことが起きた原因です。彼らは事態を収拾するのが目的ではなくて、混乱自体が目的のように思えてなりません。
知事の言い方も微妙に変わってきています。あるときから、築地は”再整備”から”再開発”に言葉が変わっています。「市場機能」がないのですから”再整備”とは言えないのです。「豊洲移転&築地再開発」は実現不可能ですし、まさに選挙用の計画だったのではないかと思ってしまいます。
そして、この知事案で最後にシワ寄せがいくのは、小池知事のことを信じ、築地市場の再整備は可能と信じた「築地再整備」派の業者の皆さんではないでしょうか。「政治」が一番やってはいけない手法だと思います。
※ 「政経電論」から転載 https://seikeidenron.jp/political/20170711_column_taira.html
生年月日:昭和42年2月21日
当選回数:4回
学歴:1989年3月 早稲田大学法学部卒業
得意な政策分野:成長戦略、中小企業政策、行政改革、クールジャパン政策、規制改革