平将明です。
7月2日に行われた都議会議員選挙で、自民党は小池百合子都知事率いる都民ファーストの会に大敗を喫しました。翌未明には下村博文都連(自民党東京都支部連合会)会長は辞任を表明。これを受け、私は7月10日に都連所属の国会議員有志とともに、後任選びは党員らによる選挙で決めるべきとの要望書を都連に提出しました。
問題はリーダーシップだけだったのでしょうか? 東京大田区選出の国会議員として、都議選の検証と都連再興の策を記します。
なぜ自民党の都議会議員が反論しないのか?
都議選を振り返ってみて改めて思うことは、なぜ自民党の都議会議員や候補者は、豊洲市場移転問題などの小池都知事の対応について、ネットやメディアを通じて自らの意見をもっともっと発信しなかったのでしょうか?
私や私の友人の築地魚河岸の生田よしかつさんなどは、メディアやSNSを通してずっと自らの主張を発信し続けました。生田さんなんかは議員でもなんでもないのに……(笑)。ネットの空間で、自民党の都議会議員の存在感がほとんどなかったのは残念です。
都議選に突入する前日に、私のインタビュー記事が産経新聞の「単刀直言」 のコーナーで大きく取り上げられました。人気のある小池都知事に対し旗幟を鮮明にするのですから、当然リスクはありますが、言わずにはいられませんでした。
知事の言っていることは実現不可能だからです。いったん豊洲市場に移転して、5年後に築地に戻ってくるという知事の築地再開発案については、「愚かな案」と指摘させてもらいました。
しかし、これらは本来、都議会議員が発信しなければならない事です。発信力のある小池都知事に対して、なぜ自民党の都議会議員は都民の心に届くような反論・発信ができなかったのでしょうか。ここに、自民党都議会の根本的な問題があり、今回の大敗の原因があるのではないかと考えます。
自民党は「うちハマグリ、そとシジミ」?
私が自民党に籍を置く国会議員として12年間活動するなかで痛感するのは、概して自民党の議員は(私も含めてですが)、自分たちを応援してくれる人たちとのコミュニケーションはよくとれていますが、消極的自民党支持層やいわゆる無党派層、さらには自民党を良く思っていない人たちに対する情報発信やコミュニケーションをとるスキルは本当に弱いと思います。
建物の中に支援者だけを集めて、小池都知事を批判したら、多くの人が「うんうん」とうなずいてくれるかもしれません。しかし、それで意を強くしてはいけないのです。
一歩街に出たら「何を言っているんだ!」と罵声を浴びることもある。しかしそういう人たちに向けても、ひるむことなく事実に基づいた丁寧な発信や説明をしなければなりません。
先述の築地魚河岸の生田さんに教わった言葉があります。「うち蛤(はまぐり)、そと蜆(シジミ)」。仲間内では蛤のように堂々としているが、いったん外に出るとシジミのように縮こまっている人のこと言うようです。
自民党は長期政権のなかで、傲慢になったという指摘もされていますが、実は知らず知らずのうちに、「うちハマグリ、そとシジミ」になってしまったのではないでしょうか?
エクスクルーシブではなくインクルーシブに
この問題は、今の安倍政権に対する批判と根っこは一緒のような気がします。つまり”エクスクルーシブ”(exclusive/排外的)な体質だという印象を与えてしまっているということ。特に権力を持っている側がエクスクルーシブな体質ではいけません。
そんな社会は息苦しいし、そんな組織は”サスティナブル”(sustainable/持続可能性)ではありません。もっともっと”インクルーシブ”(inclusive/包括的・包み込むような)であるべきです。自民党を応援してくれる人も、してくれない人も、みんなに対して丁寧な説明しなければならない。
小池都知事の”豊洲市場移転延期”に対しても、説得力のある反論をなぜできなかったのか? 都議会自民党の議員の人たちは「俺たちはやっている!」と反論すると思います。そうであればなぜ、それが都民の心に届かなかったのか。なぜ説得力を持たなかったのか。
私は、それこそ自民党東京都連が醸し出すエクスクルーシブな体質そのものにあると思っています。そこをしっかりと分析し反省をして改めないと、今後の都連復活は難しいのではないでしょうか。
選挙前から自民党は負けていた
東京都議会は、これまでは、自公連立で過半数が勝利ラインでした。しかし今回、自民党都議会は公明党と連立を解消したために、自民党の勝利ラインは単独で過半数の64議席(定数127、自民党の選挙前の議席は57)に引き上がるはずです。議会政治の常識で考えれば当然そうなります。
そもそも64人を超える候補者を立てていないのですから(60人が立候補)、厳しい言い方をすれば、そもそもこの時点で負けです。この事の重大性を執行部はどれほど理解していたか疑問です。
執行部が目指していたのは都議会の第一党でした。都議選の一週間前までの情勢分析では”都民ファーストの会”と第一党争いをしていて、自民党の予想獲得議席数は40議席前後という予想でした。
結果は過去最低の38議席(1965年・2009年)を大きく下回る23議席にとどまりました。この間の国政の責任は大きかったと思います。後半の一週間は、国会議員、閣僚、政権中枢の暴言、失言、疑惑などが連日報道され足を引っ張ったことは間違いありません。
敗因を分析する際は、64議席から40議席前後まで落ちた要因と、40議席前後から23議席まで落ちた要因は分けて考える必要があります。
ただ、こういうシビアな結果が出た後は、厳しい意見の出る自由で闊達な雰囲気の中での総括をせずに、”一致結束”の名の下に異論を封じ込める傾向が出やすくなります。純化路線を取り、よりエクスクルーシブな方向になりがちですが、ここはよりオープンに、よりインクルーシブな体質に転換できるか否かが極めて重要です。
そこで、私は7月10日に新しい都連会長選出の際は、地方議員や党員を加えた形の会長選の実施、それに伴う所信表明、街頭演説、公開討論会などの実施を提案したところです。
無党派という新しいマーケット
2009年、国政で自民党が歴史的惨敗をして野党になったとき、自民党本部では敗因を総括する平場の議論が何度も開かれました。私は、伝統的自民党支持層は収縮していると指摘し、無党派という新しい”マーケット”でどれだけシェアを取るか、これらの層にどのようにアクセスするかという戦略に転換するべきだと主張しました。当時、河野太郎さんや世耕弘成さん、山本一太さん、柴山昌彦さんなどは私と同じ考えだったと思います。
一方で真逆の意見もありました。小泉純一郎首相の出現とその後の構造改革の実行が、自民党の伝統的コアな支持層を痛めつけたために、自民党離れがおきて負けたのだという主張です。結局、自民党の総括は両論併記で取りまとめられたと記憶しています。
しかし、予算分配型の政治が変わっていくなかで伝統的自民党支持層が収縮しているのは確かです。実際に第2次安倍政権も発足当初の頃は、無党派層への発信に最大限の注意を払っていたと思います。だからこそ高い内閣支持率を得ることができました。また、経済政策で結果を出していたことも高い支持率の土台になっていました。
一方で都議会はどうだったのでしょう。2009年に国政で自民党が大敗する1カ月前に、都議選でも38議席という歴史的な敗北をしています。これを受けて総括がなされますが、私の印象だと、都議会では国政とは逆方向、自民党の伝統的支持層にもっと手厚くサービスをするべきだという方向に振れたように思います。
そして4年後、次の都議会議員選挙で自民党は大勝します。しかしそれは、彼らの選択が正しかったかどうかが評価されたというよりも、当時人気のあった国政の余勢を駆った観が強いように思います。自民党都議会は時代の変化に合わせて自己改革をしてきたのか、今まさにそこが問われているのです。
そしてまさにそこに光を当てたのが小池百合子さんでした。私は、世の中が言うほどマスコミから”ドン”と呼ばれた大物都議会議員たちが悪い政治家とは思いません。きっと彼らは彼らなりに都民のために頑張ってきたと思っていると思いますし、私もそう思います。ただ、なぜ彼らの声が都民の心に届かなかったのかは謙虚に反省する必要があります。その上で都連を再興していかなければなりません。
自民党都連再興計画(平将明私案)とは
過去の例を見ると、都政で起きたことはその後、必ず国政でも起こります。今回の都議選でわれわれが学習したことは、他に好ましいと思える選択肢があれば、自民党には入れない人がこれだけたくさんいるということです。これは事実として冷徹に受け入れなければなりません。まずは都連を立て直すことが急務です。
それでは、自民党都連を再興するにはどうすればいいのでしょう。
まずは開かれた都連会長選挙を実施し、ブラックボックス批判に終止符を打うちます。新しい都連会長には[1]操り人形でない人、[2]恩讐を超えて小池知事と是々非々で対応できる人、[3]公明党と今後の国政・都政の体制について腹を割って話のできる人、が望ましいと思います。
政策面では、国政で培ったさまざまなノウハウを都政に集中投下して自民党都議会の政策立案能力を飛躍的に高めます。例えば行政改革。議会で都のすべての行政事業をレビューする仕組みをビルドインする。ノウハウは自民党行政改革本部(河野太郎本部長・平将明本部長代理)にあります。
経済では国家戦略特区やレギュラトリー・サンドボックスを活用してイノベーションを促進し、成長を促す政策を実施します(自民党経済構造改革に関する特命委員会/茂木敏充委員長・平事務局長代理)。
また、さまざまなシェアリングエコノミーを経済社会にビルドインして人手不足に対応しつつ、多くの人に出番と役割を担ってもらうコミュニティを作ります。2020年オリパラに向けた最新のサイバーセキュリティ対策も提案実施します(自民党IT戦略推進特命委員会/平井卓也委員長・平副委員長)。
私が政策立案に関係している分野だけでもこれだけあるのですから、都連所属国会議員のポテンシャルを最大限発揮すれば、政策立案能力において最強の自民党都議会が作れるはずです。
新党が出現しても勝てる強い都連へ
さらには、党公認の決め方も変える必要があると思います。例えば情勢分析調査の方法を抜本的に改め、候補者の新陳代謝が起こりやすい仕組みを作る。
既存の政党の候補者の中でどれがいいですかという従来の調査をすると、既存の野党がダメダメな場合、決して当該自民党現職を良いと思っていなくても、ほかに選択肢がなく、消極的支持で自民党現職の支持する数字が高くなることがあります。
しかし目新しい新党などの選択肢が現れると、このような候補者では太刀打ちができません。党としてもあっという間に大量の議席を失うことになります。
そこで、現職と公募で選んだ別の自民党公認候補という仮定の選択肢2つを用意し、どちらが良いかを選べる形で調査をする。オルタナティブ(Alternative)の方の支持が高ければ現職と差し替える、というようなやり方も検討する必要があるでしょう。
新しい都連会長には、体質面ではエクスクルーシブからインクルーシブへの転換を。開かれた都連を実現し、政策を強化し、新党が出現しても勝てる強い都連を実現し、小池知事と是々非々で渡り合える都連を作っていただきたいと思います。
今まで述べてきた問題点は、都連所属の国会議員である私もすべて連帯して責任を負うものです。今後、与えられた立場で微力ながら都連再興に力を尽くしていきたいと思います。
※ 「政経電論」から転載 https://seikeidenron.jp/political/20170719_column_taira.html
生年月日:昭和42年2月21日
当選回数:4回
学歴:1989年3月 早稲田大学法学部卒業
得意な政策分野:成長戦略、中小企業政策、行政改革、クールジャパン政策、規制改革