石破茂会長石破 茂 です。

議員となって33年、10回の参院選に関わってきましたが、今回ほど有権者の冷めた視線を感じたことはなく、戦後2番目の低投票率はその象徴であったというべきです。

民主主義が機能するには「参加する権利を有する者の多くが投票する」「有権者が判断するに際して公正・適切な情報が公平に伝えられる」ことが必要なのですが、このどちらも欠いてしまったことは民主主義が大きな危機に直面していると言わねばなりません。

私の鳥取選挙区においても、自民党公認の舞立候補が、野党共同候補である無所属の中林佳子氏(共産党公認で衆院旧島根全県区・比例中国ブロックから過去4回当選。今回は共産党推薦、社民党支持、立憲民主党と国民民主党は自主投票)をダブルスコアで破って再選を果たしましたが(鳥取・島根の皆様、ありがとうございました)、鳥取県内の投票率は過去最低の49・98%となってしまいました。

鳥取県の東端から島根県の西端までは東京・名古屋間より距離があり、隠岐諸島まで含む広大な選挙区となってしまったため、有権者が候補者本人の訴えを直接聴く機会は極端に制約され、個人演説会を開くこともほとんど出来ませんでした。

島根出身の自民党候補である三浦氏は、今回導入された「特定枠」によって比例名簿上位に搭載されて最初から当選が確実視されたものの、自分の訴えも出来ず、投票用紙に名前も書いてもらえないという摩訶不思議な選挙活動しかできなかったこともあり、島根の投票率も過去最低となりました。

舞立候補が島根に行っていて鳥取県内に不在の時は、二区の赤澤代議士と手分けしてなるべく鳥取県内の有権者と接するようにしたのですが、「候補者は何処にいるの?本人の訴えをせめて一度聴きたかった」との声が耳朶に残って離れません。私自身、自分の選挙中は選挙区にはほとんど居ないのですが、告示前に数日かけて選挙区内を自民党の広報車で回るように心掛けてきました。次回総選挙においてもこれを更に徹底させなければならないと痛感したことでした。

参議院における一票の格差の是正が「法の下の平等」の観点から重要であることを否定はしませんが、合区の理不尽さは歴然としています。憲法改正をするしか合区解消の手立てがないとする自民党の立場からは、これこそ時限性のある憲法改正の最優先課題としなくてはなりません。その際は二院制の意義や地方分権も併せて論ぜられるべきことは当然です。

有権者に一体何が争点なのか、判然としないままに選挙が行われたことが低投票率のもう一つの原因でした。「政治の安定か、混乱か」「憲法の議論が必要か否か」と問われれば多くの人が「安定」「必要」を選択するに決まっているのですが、「安定した政治で何を目指すのか」「憲法のどこをどのように変えるのか」を語らないままに「国民の大きな支持を得た」と評価すれば、国民の意識との間に乖離があるように思えてなりません。

一方で論じるべき問題は多々あります。

「消費税は今回上げれば、この先10年間は10%で大丈夫ではないか」という趣旨の総裁のご発言(選挙前の7月3日の党首討論)には大いに驚いたものですが、開票当日の番組でこれを「私の在任中は税率を引き上げないということだ」と仰った際にも、野党からもメディアからも特段の言及はありませんでした。

トランプ大統領は参議院選挙終了を念頭に「八月には日米にとって良い発表ができる。貿易不均衡を早期に解決したい」と述べましたが、昨年9月には「我々(大統領と首相)はFTA交渉開始で合意した」と明確に述べており、「この交渉はFTAではなく、あくまでサービス分野や投資などを含まないTAGなのだ」とする日本との立場の相違も明確になるのかもしれません。

貿易や日米安保体制の見直しのみならず、一見良好に見える今後の日米関係そのものも大きな課題となります。選挙中にダンフォード・アメリカ統合参謀本部議長が提唱した有志連合への日本の参加も、護衛の対象が日本人の生命と財産に限定された海上警備行動や、対象を海賊行為に限定した海賊対処法は適用が困難で、特別措置法が必要となるはずですが、テロ特措法やイラク特措法とは異なり、国連決議が存在せず、イランとの従来からの関係を考慮するとこれも極めて難しいものとなりそうです。

これらが全くと言っていいほどに議論にならなかった国政選挙とは何であったのか。争点として有権者の前に示せなかったことは私たちの責任であると同時に、敢えて言えばメディアにもその一端はあると思います。

選挙期間中、秋田・宮城・東京・千葉・長野・静岡・滋賀・三重・香川・佐賀の各都県を廻りましたが、6勝4敗というあまり芳しくない結果となってしまいました。お手伝いの仕方が十分でなかった地域の皆様には申し訳のないことでした。

選挙直後はまだ気持ちが張り詰めていて感じなかった疲れが一昨日あたりからどっと出てきてしまいました。来週は講演が5つあり、今週末はその準備に充てたいと思っております。

午前中は梅雨が明けたかのような日差しの照りつけた東京都心でしたが、台風6号の接近に伴い週末は荒れた天気となりそうです。

皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

政策コラム執筆者プロフィール
石破茂会長石破 茂 鳥取1区【衆議院議員】
生年月日:昭和32年2月4日
当選回数:11回
学歴:1979年3月 慶應義塾大学法学部卒業
得意な政策分野:安全保障・農林水産・地方創生