石破 茂 です。
「挑戦と安定」を掲げた内閣改造から一週間が経ちました。色々な論調があるようですが、ただ一人の任命権者である総理大臣が「これが国家国民にとってベストである」として人選したのですから、とやかく言うべきではありません。内閣全体としても、個別の閣僚としても、何に挑戦するのか、それを阻んでいるハードルは何であるのか、それを乗り越えるためにいかなる施策を持って臨むのか、スローガンや総論ではなく、各論と具体策が問われています。
来月から始まる国会において、国民・有権者が納得する議論が展開されることを期待しています。
9月9日からの一週間で、千葉県内において熱中症で搬送された方は498人と、全国最多を記録したそうです。今回の台風が強風を伴う異例のコースを辿ったとはいえ、自然災害でこのような被害が発生するのですから、有事においてどうなるのか想像すると極めて恐ろしいと言わざるを得ません。
世界でも稀な災害大国であり、首都直下型地震、南海トラフ、富士山噴火も時期の如何はともかくとして必ず発生すると言われている我が日本において、何故、復興庁を改組発展させ「防災省」として設置することを議論もせず等閑視するのか、私には理解できません。
内閣府防災担当部局は最大限に機能しているのでしょうし、災害対応の体制も日々進歩していることは確かですが、人員は決定的に足りませんし、各省からの出向者で構成されていることもあって、長期間にわたる知識や経験の伝承は困難です。被災各自治体に蓄積されている知見も全国的に共有される必要があり、災害が起こる度に自治体ごとの対処体制の違いが問題となりますが、これも出来る限り同じ体制に整えていかなくてはなりません。防災省の長たる国務大臣には災害対策に通暁した学識経験者を充て、内閣改造があっても交代はしない、というような、あるべき理想の姿を描いてみた上で、現行制度との優劣を比較すれば、それでもなお今のままが良いということにはならないのではないでしょうか。
危機管理体制について、不断の検討を行う、というのは政府の常套句ですが、その進捗状況を常に検証しなくては実効性は担保できません。平時から有事に至る手前までの「グレーゾーン」の対処法制や対処態勢についても、どれほどの検証がなされているのか質していく必要があります。そもそも国家主権そのものである領土(領域)が外国勢力によって侵害された場合、国際法上は自衛権で対応するはずですが、我が国の法制上はまずは警察権で対応するということになっており、その齟齬にも懸念が生じます。
平時ではないが、「急迫不正の武力攻撃」はいまだ発生していない、という「グレーゾーン」の状況は間違いなく想定されますし、しかも可能性の高いものです。これにいきなり「防衛出動」で対処すれば「先に武力攻撃を仕掛けたのは日本である」という口実を相手国に与えかねず、我が国の国益を大きく損ないます。
平和安全法制の制定の際、「武力攻撃予測事態」というカテゴリーを創設し、このグレーゾーン対処もある程度含むイメージとなりました。しかし議論全体としては「集団的自衛権行使の限定的容認」に集約されてしまい、その後これが深掘りされることはあまりありませんでした。問題が生起し、事態が拡大してからでは遅いのであり、今後党内でも議論を提起していきたいと思います。
党人事も「改憲シフト」と報道される向きもありますが、野党がどうのこうのという前にまずは自民党内で徹底した議論が行われなくてはなりませんし、党内から出される疑問に責任を持って答弁できる立場の方がおられなくては、議論はそもそも成立しません。
政権奪還時に掲げた党議決定たる憲法改正草案と、総裁が「一石を投じ」られた案との相違について、総裁もしくはそのお考えを体した方から党内と国民に説明することが求められますし、いわゆる「叩き台」(「憲法改正に関する議論の状況について」と題する昨年出されたペーパー)の案が、「自衛隊を明記するだけであとは何も変わらない」というものでは全くない以上、この点についての責任ある説明も求められます。
特に、従来政府が繰り返し答弁している「必要最小限度の実力組織」という表現ではなく、「必要な自衛の措置」となったことにも、相当の理由が必要です。
「必要最小限の実力しか持たず、必要最小限の権限しか行使しないので、戦力でもなく軍隊でもなく、交戦権でもない」という政府答弁は、論理の当否は別として日本語としては成り立ちますが、「必要な実力しか持たず、必要な権限しか行使しないので、戦力でもなく軍隊でもなく、交戦権でもない」となると、もはや日本語としても意味不明になりかねません。「必要な」の前に「日本の独立を守るために」と言う言葉を挿入しても、本来国際法上の「自衛権」の概念と同様にしなければならないところが乖離してしまうことには変わりありません。
このような誰にとっても理解の困難な「改正」により、国際法上の常識とかけ離れた憲法を日本人自身の手で固定化してしまうことになれば、後世に必ず禍根を残すものと危惧しております。
宮川典子衆議院議員が40歳の若さで乳がんのため逝去されました。私が会長を務める「農林水産高校を応援する会」の事務局長として、ご自身が教員であった経験を生かして本当に良い仕事をしていただき、六月に開かれた総会でも見事な働きをしてくださっていただけに残念でなりません。溌溂として明るい中にもどこか憂いを感じられたのがずっと気になっていたのですが、御霊の安らかならんことを切に祈ります。
週末は、本日金曜日は「プライムニュース」に出演(BSフジ・午後8時)、22日日曜日は鳥取青年会議所創立60周年記念講演会で講演・パネルディスカッション(午後4時・ホテルニューオータニ鳥取)という日程です。
皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。
生年月日:昭和32年2月4日
当選回数:11回
学歴:1979年3月 慶應義塾大学法学部卒業
得意な政策分野:安全保障・農林水産・地方創生
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