石破茂会長石破 茂 です。

今週は講演、東京都議会議員補欠選挙の応援街頭演説、雑誌の対談、テレビ出演等々、矢鱈と慌ただしい一週間でした。

ここしばらく、聴衆の方々を対象とした講演や演説はしていなかったので、久し振りに登壇してみるとしばらくは元のカンが戻らず当惑してしまいました。政治家の原点はやはり街頭演説であることを再認識したことでした。

東京都知事選挙は四年前とは様変わりで、静かなままに5日の投票日を迎えそうです。史上最多の22人が立候補しており、改めて選挙公報を読んでみたのですが、バラエティに富んだ、なかなか興味深いものでした。主義主張、人格識見には随分と幅があるものだと思わされますし、これが民主主義の妙味というものでしょう。

東京の主要課題は、震災・水害・噴火等々の災害と、急速な高齢化に対する介護・医療体制の維持確保であり、コロナはもともとあった課題を顕在化させたものだと私は思っているのですが、そのようなことを強く訴える候補者があまり見かけられないのをとても不思議に感じています。明後日は投票日、東京都の有権者の皆様は、棄権なさることなく投票にお出かけくださいませ。

イージス・アショアの「停止」後の安全保障政策について、自民党内の議論が始まりましたが、抑止の本質についてもう一度一から考え直す必要性を痛感しています。憲法論、法律論、日米安保体制、拡大抑止論、装備体系と運用構想等々、すべてを正確かつ整合的に理解しなければ判断を誤るのであり、限られた中にあって可能な限りの労力と時間を費やさなければなりません。

東京におけるコロナウイルス感染者が再び大きく増加していることは、検査の拡大によるものだけではないようです。正確な数字と科学的な分析による報道が乏しいように感じられ、対応にも大きな懸念を感じています。「接触機会の増大」と「感染機会の減少」の両立をどのように果たしていくか、医療崩壊を起こさない体制は確保されているのか、政治的な思惑を一切排し、的確な情報の発信が求められると考えます。

今週も、総選挙、自民党総裁選挙など、いつどうなるとも知れない話題の多い一週間でした。一週間どころか数日で状況が一変してしまうようなことに、多くの時間や紙幅を割くことにどのような意味があるのでしょう。誰と誰が会食した、人事について意見を交換した、というだけのニュースに接する度、深い論説や思考への飢餓感すら覚えます。人事を巡って展開される権力闘争が政治の重要な部分であることは承知しておりますが、それだけが政治ではないはずです。

中国の香港に対する対応は、平成元年の天安門事件と二重写しになります。

共産党一党独裁体制の維持が最大の目標である中国の価値観は、我々とは大きく異なるものであることを前提としなければなりません。私は「中国も経済的に豊かになれば、やがて人権を重視した民主主義に移行していくだろう」というような見通しを持ったことは一度もありません。天安門事件において、「中国共産党の軍隊」たる(決して「国民の軍隊」ではない)人民解放軍が、一党独裁体制に異を唱える学生たちに銃を向けたことは、むしろ彼らの論理からは当然であり、我々とは全く異なる価値観を持っている体制であることをよく認識しなければなりません。

天安門事件後、日本が他国に先駆けて経済制裁を緩和したことは、経済にとっては良かったのでしょうが、これが天安門事件に対する免罪符を中国に与え、国内における民主化勢力を孤立化・弱体化させたこともまた事実です(阿南友亮「中国はなぜ軍拡を続けるのか」新潮選書・2017年)。「愛国教育」を受けた中国の若い世代が、権力に擦り寄ることによって自らの社会的・経済的地位の向上を実現させることに意義を見出しているとすれば、この傾向は更に強まるものと思わざるを得ません。権力に阿諛追従し、己の利益を図るのは人間の性のひとつではあるのでしょうが、香港の人々の苦難について日本人が我がこととして捉えることの困難性を認識しつつ、それでも彼らに思いを寄せることが重要と考えております。

テレビや雑誌などの「わが青春の思い出」的な企画で何度かご紹介したことがある東京都港区三田の大衆割烹「つるの屋」店主・渡辺孝さんが逝去され(享年60)、50余年の歴史に幕を閉じることになりました。あまりに早いご逝去を悼むとともに、年に数回ではありましたが、三田に行く楽しみがなくなってしまったことが残念でなりません。

慶応大学在学中、ほとんど毎週の土曜日にはここに通い、法律論を闘わせ、人生を語り、恋愛話に花を咲かせて終電まで呑んでいたものでした。今から思えば気恥ずかしく、青臭い書生論ばかり語っていたように思いますが、かけがえのない思い出です。

入居していたビルの建て替えに伴って近隣に移転し、コロナ禍で遅れていた新装開店も間近に控えて、私の来店を楽しみにしておられたとの話を伺って、胸が塞がれる思いが致しました。「つるの屋」はもうないのだ、と思うと、たまらなく悲しく寂しい思いが致します。

東京は週末も梅雨空となりそうです。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

政策コラム執筆者プロフィール
石破茂会長石破 茂 鳥取1区【衆議院議員】
生年月日:昭和32年2月4日
当選回数:11回
学歴:1979年3月 慶應義塾大学法学部卒業
得意な政策分野:安全保障・農林水産・地方創生