平将明デジタルトランスフォーメーション(DX)は政治や行政において強く求められています。自治体と中央省庁の情報のやり取りはFAXで行われ、オンラインで申請された情報を紙で突合する……。海外のスピードと比べて日本の手続きが遅い理由は明らかです。これを機に抜本的なデジタル化を進めなければなりませんが、何が妨げになってきたのか。内閣府でIT政策やサイバーセキュリティを担当する平将明副大臣は、「デジタル遷都」の必要性を訴えます。〈以上、編集部記載〉

「地方創生2.0」&「デジタル田園都市国家構想」

今回の新型コロナウイルスは、テクノロジーが進化するなかで、それに合わせて仕組みを作ってこなかった行政や企業の怠慢をあぶりだしました。

日本においては天然痘などの疫病、飢饉、自然災害などに苦しめられた歴史があります。過去、そういったことが起きると、当時の支配者は、例えば元号変える、大仏をつくる、都を移す(遷都する)といったことをやってきました。

私は今回も過去の例に倣って“遷都”すべきだと考えています。

ただ、昔は疫病がはやっている場所を捨てて都を移しましたが、今回の世界的なパンデミックのなかでは人の移動によって新型コロナウイルスを避けることは難しい。今やるべき遷都は、行政機能をリアルな空間からサイバー空間に都を移すこと、つまり「デジタル遷都」です。

これらはスピード感をもって進めなければなりません。デジタルガバメントで有名なエストニアが急速にデジタル化を進めたのは、ロシアの脅威が関係していると聞いています。政府がサイバー空間にあって国民一人ひとりとつながっていれば、たとえ他国に本土を占領されてもエストニアという国家は存続するという危機管理の視点です。

その視点で考えれば今回の新型コロナウイルスも大変な危機です。また、終息するのはワクチンができ、治療薬ができたときだと思いますが、次の危機が襲ってくる蓋然性は高いわけです。

日本特有の問題としては、首都直下型地震や南海トラフ地震が想定されていますので、今回を機に急速にサイバー空間に政府機能を移すのは待ったなしでしょう。また、政府機能をリアルからサイバー空間に移せば移すほど国家としての強靭性が増し、サスティナブル(持続可能性)だと言えると思います。

今後の社会は、「密」から「疎」に転換していきます。1970年代には大平正芳内閣の「田園都市国家構想」というビジョンがあり、現在の安倍晋三内閣においては「地方創生」があります。いずれも分散型ですが、分散することによって低下する生産性を、今はテクノロジーを使って補うことができます。永田町(政治)や霞が関(行政)に来なければできないことが、それらをサイバー空間に置くことによって、どこにいてもアクセスすることができるようになるのです。

これからの社会ビジョンは、「地方創生2.0」や「デジタル田園都市国家構想」に変わっていくでしょう。

“構造”と“国民の意識”の問題

日本では、新型コロナウイルス感染症の発生や流行を把握するため、陽性患者が発生した際に医療機関から保健所への発生届を送るのですが、医師が紙に手書きで書いて、ハンコを押し、FAXで送るという方法が主でした。日本はデジタル化が遅れているということで、5月1日のロイターに“Fax-loving Japan”と書かれ揶揄されました。

しかしこれはテクノロジーではなく、“構造”と“国民の意識”の問題だと思っています。他国に比べて日本のテクノロジーが遅れているとは思いません。

構造には、2つ問題があります。一つは中央省庁の縦割り。各行政機関は情報を外部に漏らさないようにし、サイバー攻撃から守らなければなりません。そのため、セキュリティの関係上、独自のサーバーを持ち、壁を立てることになります。

そんななかで、政府全体で取り組もうとすると壁が邪魔をしてITの運用を統合できないという問題を抱えています。統合するとなったら、その縦の堅固な壁を壊すのか、どうするのか。

もう一つは、自治体と都道府県と国の間にある壁の存在です。

感染症などの対応は、基本的には自治体がすることになっています。新型コロナウイルスの発生届は[保健所→自治体→都道府県→厚生労働省]という順番で情報が伝わっていきますが、FAXを使って機関間の情報連絡を行っていたこと等から、厚生労働省はリアルタイムで数を把握することができませんでした。むしろFAXが送れていなかったり、二度送ったりしたことで二重計上も起きていた。

自治体・都道府県・国の“横の壁”と、中央省庁の“縦の壁”。この構造がある限り、ITの運用を変えることはなかなか進みません。

クラウド化で縦割りと横割りを機能的に無力化する

そんななかで、いくつか成功事例もあります。例えば、前述のFAX等で情報共有していた新型コロナウイルス感染症の発生情報については、厚生労働省は緊急的に対応をおこない、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム「HER-SYS(ハーシス)」を開発し、今年5月から導入が始まりました。

クラウドに発生届を提出する仕組みなので、集計も早くなり、情報の共有も即座に行うことができます。これによって中央省庁の“縦の壁”は越え、“横の壁”も機能としては実質無くなります。

つまり、クラウド技術を活用し異なる組織の機能を連携、統合させることによって、縦割り横割りの問題は解決するのです。セキュリティもクラウド全体に対してモニタリングするため、約1700の自治体が個々に対応する必要は無くなります。

問題もあります。各自治体が持っているサーバーとソフトは自分たちで用意して開発したもの。クラウド上でシステム統合するということは、それらを一度ナシにするということです。税金を使い時間をかけて構築してきたものを捨てることが政治的に可能かどうか。

ただ、それをやらなければ、行政全体で見たときにフレキシビリティ等の観点から最適でないシステムを使い続けることになりかねません。

厚生労働省は、今回、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム「G-MIS(ジーミス)」を、新たに整備しました。これは、全国のベッドが20以上ある約8000の病院の稼働状況や外来の状況、医師・看護師の人数やマスクや薬が不足していないかなどを一元的にリアルタイムで把握する仕組みです。

実は、厚生労働省には、医療機関の情報を集約するシステムとして、「G-MIS」以外にも、災害時に医療や救護などの情報を集約するレガシーの仕組みを持っています。しかし、これを変更するとなるとものすごいお金と時間がかかるため、今回は新しくG-MISを用意しました。そのほうがイニシャルもランニングコストも安いからです。結果的にレガシーと新しい仕組みが両並びになっています。

レガシーシステムを捨てられるかどうかは「デジタル遷都」において大きな課題になります。さまざまなステークホルダーがいるため、意見もたくさん出るでしょう。これらは行政の判断で行うことができないため、政治家が政治的権限をもって進めることが重要です。

なんとなく怖いという“国民の意識”

新型コロナウイルスの感染拡大対策として、6月19日から厚生労働省は「接触確認アプリ」の提供を開始しました。私が事務局長を務める官民の感染症対策テックチーム「Anti-Covid-19 Tech Team」が主導してつくったものです。

多くの人がアプリを利用すればするほど感染症対策の効果は高くなりますが、日本においては全国民にアプリのインストールを強制することはできませんので、ハードルをとても低くしました。名前や電話番号をはじめ位置情報等の個人情報は一切とりません。Bluetoothによるスマホ同士の距離を利用して、接触を記録します。にもかかわらず、SNS上には個人情報の流出を心配する声があふれています。

海外にも同じようなアプリはあり、そちらは個人情報を取得する仕組みになっていたりしますが、日本のものは全く異なります。それを、メディアが並列で報道することによるミスリードが起きていることは否めません。この“なんとなく怖い”という感覚を払拭することは、デジタル化の推進においてとても重要です。

アプリのリリース直後、SNSには不具合についての批判が相次ぎました。世のITのエンジニアの方たちは自分の意見をSNS上で発信することが多くあります。一方、これまで政府のITのエンジニアは、「わかる人はわかるよね」という考えからか、反論には消極的でした。

しかし、政府CIO(最高情報責任者)の下には能力の高い人たちが集まっているのですから、自らSNS上に出ていって、不安を払拭するためにわかりやすく説明することをしたほうがいい。これまではそういったことを、しなさすぎました。

先日、ある委員会でも驚いたことがありました。野党議員の方が「政府が信頼できないからマイナンバーカードを持っていない」というのです。国会議員なら、どういう懸念があるのかを明確に示してほしい。そうすればわれわれは説明しますし、その懸念が正しければ対応を検討します。「なんとなく」政府が信頼できないと言われてしまうと、どうしようもなくなってしまいます。

マイナンバーカードと口座の紐づけ

なぜ台湾ではマスクが国民に行き渡ったのでしょうか。なぜアメリカでは短期間で給付金が支給されたのでしょうか。それは、アメリカにはソーシャル・セキュリティナンバーがあり、紐づけられた銀行口座に自動で振り込むことができたから。台湾の健康保険証にはICチップが内蔵されており、それを使って購入をするようにしたからです。

一方、日本は「なんとなく怖いから」と思う人も居て、マイナンバーカードが普及していません。マイナンバーと銀行口座の紐づけもありません。そのため、給付するためには銀行口座の申請から始めなければならないのです。

今回、世界では当たり前なのに、日本はそうなっていないことが明らかになりました。その原因は、テクノロジーの遅れでもなければ行政機関の能力の低さでもありません。政府の努力ももちろん必要ですが、“国民の意識”を変えていかなければなりません。

国民の意識を変えるにはプレスカンファレンスや公式発表も重要ですが、やはりSNSを活用すべきだと思います。例えばTwitterは、情報収集機能が優れています。さまざまな批判に対して政府CIOのような専門家が逐一説明をする、政治家はそれをリツイートすることによって拡散を促す。また、特定の反応を示すセグメントされたグループには適切な情報を伝える。そうやってリテラシーを底上げしていくのです。

行政は仕組みをつくることはしますが、情報を広めることは得意ではありません。政府広報だけでは不十分です。そういう意味では政治家もSNSを活用すべき。世界で一番うまく使っているのは、ご存じの通りトランプ米大統領ですね。

デジタル化はETC方式で

やはり、デジタル化を進めるなかでは、デジタルがいくら便利でも苦手だったり嫌だという人はいるでしょう。デジタル化においても、僕は(高速道路の)ETC方式と言っていますが、多くの人がETCを利用するなかでも一部の人たちのために人の手による料金所も残しておきながらになると思います。

今後は、マイナンバーカードのマイナポータルに銀行口座を登録しておいてもらい、給付金などはそこから申請したものは登録された口座に振り込むことができるように、マイナンバーと口座の紐づけを義務化することを検討していきます。

2021年3月からはマイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになります。医療機関や薬局の事務手続きが効率化され、顔写真の認証も付くのでセキュリティも向上するなどします。将来的にはもっと精緻な生体認証を入れる可能性もあります。

デジタルのほうが早いし、間違いが少なくなるのは明らかです。オンラインで申請された特別定額給付金について、デジタルデータをプリントアウトして突合するというような自治体もあったようですが、突然決まったことですし、不慣れなことでデジタルデータの活用ができなかったこともあったのだと思います。

基本はデジタルデータで突合しつつ、うまくできなかった部分は人の目で確認する、というようなのが本来のやり方だと思います。

「デジタル・ガバメント庁」の創設へ

ITは全体で標準化する必要があると思います。

マイナンバーの運用は総務省、マイナンバーカードは内閣府、デジタルガバメントをどう活用するかを考えるのは内閣官房のIT総合戦略室です。現在、菅官房長官が「デジタル・ガバメント閣僚会議」の下に「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」というのをつくっていますが、ベストは企画から調達まですべて一括でやる「デジタル・ガバメント庁」をつくることです。それは政府全体のみならず、自治体まで含めて標準化するものになるでしょう。

国の一般会計予算では、デジタルインフラの整備・運用に4000億円を計上しており、そのうち複数の府省で共有する700億円は内閣官房IT総合戦略室に一括計上されています。もっと強い権限を持つということでは「デジタル・ガバメント庁」ということになるでしょう。

デジタルガバメントやデジタル遷都というものは、行政に任せていても実現できません。政治主導で法律もつくり、予算もつけなければ進みません。

大きな災害や疫病で社会は変わりますが、今回の新型コロナウイルスは全国民の関心事、自分事になったことでこれまでにない大きな推進力になっています。

政府の情報通信技術(IT)政策担当にずっと同じ人物が長期間大臣を務めていれば、デジタル化はかなり進んだと思いますが、これまでは問題意識が薄すぎました。これからの政権の目玉政策は、いずれにしてもデジタルガバメントになってくるでしょう。

※ 「政経電論」から転載https://seikeidenron.jp/articles/14093

政策コラム執筆者プロフィール
平将明平 将明 東京4区【衆議院議員】
生年月日:昭和42年2月21日
当選回数:5回
学歴:1989年3月 早稲田大学法学部卒業
得意な政策分野:成長戦略、中小企業政策、行政改革、クールジャパン政策、規制改革